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■「プロジェクト志向でいこう!」(18)  2007年5月執筆


◆4月24日の「全国学力テスト」

 前日23日の朝、白い手袋をした宅配の業者の人が学校にやってきた。二人一組で、受け取りも校長先生という指定付き。翌日の「全国学力テスト」の問題用紙の入った段ボールであった。事前のマニュアルのビデオまで作成し、(これを見た学校は何校あるのだろうか?)その準備や運営にものすごく力が入っている。そこまでしなくても…と思いつつ、言われたとおりに準備をして、回収もていねいに行われた。
 一体、いくらお金がかかっているのか調べてみた。問題作成に22億円、テストの運営に55億円、計77億円。参加校33000校なので、単純に割れば1校あたり23万円。参加者(小6と中3)が23万人なので、1人あたり3万3000円。
 高いか安いかの議論はここではしないが…。すごいお金をかけてしなければならなかったのは、教育の現場ではなく、文科省の側であったのは衆目の知るところである。


◆段ボールには「B社」の表示が…

 今回の全国のテストの委託業者は、小学校が「B社」中学校が「N社」であった。
※委託業者の選定について(文科省のサイト)
http://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/18/07/06070318.htm

B社と言えば、元「進研ゼミ」。全国的なテスト(通信教育)の実績のある会社。かつて進学競争が過熱した時代に業績を伸ばし、近年の“ゆとり教育”で進研ゼミの加入者が激減。その後「オーダーメイド教材」のよって加入者を呼び戻したそうです。
B社の業績
http://www.benesse.co.jp/IR/japanese/library/meeting/fy2006_9/01_02.html

2003年からの業績の向上は、“ゆとり教育”から“学力低下”問題、学力向上という文科省の方針転換に呼応しているように感じるのは私だけだろうか。

わが島根県でも県の学力テストが1年前から行われているけど、その業者さんは、B社さん。たぶん他県でも…。

文科省公認のテストを作って、集計するのが、「進研ゼミ」。

なんか変? そう思うのは私だけ?


◆「全国学力テスト」の評判

 テストを受けた子どもたちや担任の先生からは「難しかった!」そうだ。単純な問題ではなく、考える力を必要とされらしい。

 新聞各社は、25日に一面で大きく扱っていた。社説の見出しは次の通りだった。

・朝日新聞の社説「全国学力調査―格差を広げないように」

・毎日新聞の社説「社説:学力テスト 序列化の具にしてはいけない」
http://www.mainichi-msn.co.jp/eye/shasetsu/news/20070423ddm005070134000c.html

・読売新聞社説「全国学力テスト 結果を教育改善にどう生かすか 」
    記事:考える力、試す…全国学力テスト
http://www.yomiuri.co.jp/kyoiku/news/20070425ur02.htm

・日本経済新聞の社説「学習改革に学力テスト生かせ(4/21)

各社の社説に大きな違いはない。学力テストで競争や序列化を煽るのではなく、教育改善のために正しく扱うべきだと主張している。全くその通りなのだが、逆説的には、学力テストで、競争が煽られ、テストの成績を上げるために各学校が必死なる…といったことが起こりうることが充分に予想される。そう願っているのは誰だろう?


◆全国学力テストのねらい
 
 文科省の示す目的は、次の通りである。

(1)国の責務として果たすべき義務教育の機会均等や一定以上の教育水準が確保されているかを把握し,教育の成果と課題などの結果を検証する

(2)教育委員会及び学校等が広い視野で教育指導等の改善を図る機会を提供することなどにより,一定以上の教育水準を確保する

「一定の教育水準を確保する」とは、「成績のよくない学校は反省・改善し、もっと底上げを図りなさい。」というようなもの。「広い視野で教育指導等の改善を図る機会」とは、「全国の順位を意識しなさい。」という競争意識を煽るものに感じる。

新聞社各社の主張は、まさしく文科省に対して言っているように思える。

全国学力テストについての解説がここにも載っている。

http://benesse.jp/blog/20050901/p1.html

先のB社さんの「教育情報サイト」
「全国学力テスト」はいいことだ。やるのは当然。そんな主張です。


今回のテストの問題は、いわゆるPISA型の問題。「読解力」低下に対応し活用する力を図るような問題が作られている。つまり、文科省がねらう“国際競争力のある”学力とは、今回のテストのような問題なのです。


◆本当の文科省のねらい

『国内でPISA型の全国学力テストを実施し、全員がテストを受けることで、学校間の成績の競争をする。そして、国内の学力競争により日本のPISAのテストの成績を上げる』そんなねらいを私は感じる。

傾向や実態を把握するだけなら、全員参加の必要はない。全員参加の裏側に「テストをすることで学力を向上させよう!」という競争意識を煽る意図を感じる。

今回のテストには、アンケートがあり、子どもの生活や生活環境との関連について調査するという。

それ以外の文科省のこれまでの政策や学校の教育環境、教師の仕事の環境…もっと調べることはあるのではないか。

今回のテストを実施しなかった国内唯一の自治体が、犬山市。「自ら学ぶ力」をはぐくむ教育を掲げ、少人数学級を推進している犬山市。その主張は明確である。

教育の地方分権は、この国にはまだ根付こうとしていない。


 
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