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■「プロジェクト志向でいこう!」(32)   2008年9月執筆

                   若槻 徹(島根県)
                 waka@bs.kkm.ne.jp    

◆今年の夏休みは・・・ 

 みなさんは、夏休みが終わって、いよいよ2学期がスタートし、運動会や学園祭、いろいろな行事がに向けて、忙しくなったころでしょうか。

 行政(教育委員会)1年目の私にとって、今年は初めて「夏休み」のない年でした。もちろん、最近は教員でも、夏休みだからと言って、学校が休めるわけではなく、ほとんど毎日勤務する生活ですよね。でも、子どもたちがいない学校での勤務は、授業がないので、ある程度ゆとりをもって過ごせていたように思います。精神的にのんびりできる時間がこれまではありました。
 ところが、今年は、職場の中での行事はなく、季節感を感じることは少なく、デスクワークの毎日を過ごしています。夏休みだという感覚はありませんでした。

 そんな「夏休み」期間の最初と最後に、教員採用試験に関わる仕事をさせてもらいました。同じ課内に教員採用の業務を行っている部門があるので、試験監督や面接等の担当をすることになったのです。

 今回は、その教員採用試験のお話です。


◆今年の夏が初体験・・・教員採用試験(一次試験)の仕事

 「教員採用試験」と言えば、大分教員採用汚職事件の今年は注目度アップ!。島根県の教員採用試験の一次試験でも、新聞社やTV局のマスコミの取材がありました。たまたま、私は試験開始時刻の早い部屋の試験監督の役でしたので、試験開始前には、会場の部屋の中にTVカメラが入っていました。

 試験監督の仕事は、試験の諸注意の説明、試験の用紙の配布・回収と試験中の監督・・・といった事務的な仕事です。何かトラブルが発生すればすぐさま対応しなくてはいけないのですが、不正行為は当然ありませんし、そんなに大変な仕事だとは思っていませんでした。ところが・・・。

 7月19日(土)の試験会場の松江市の最高気温は32.5度。天気は曇りでしたが、湿度は高く、試験会場は、クーラーもない高校の普通教室でした。その状況の中で30人ぐらいが一斉に試験に向かいます。熱気が室温を更にアップさせていく状況の中では、じっと座っているだけでも汗が滲んできます。汗だくの厳しい環境の中でも、試験問題に格闘しながら、鉛筆を走らせている姿に私は圧倒させられました。

 島根県の今年の教員採用試験の競争倍率は、8.7倍。近年少しずつ倍率は下がってきましたが、相変わらずの「狭き門」。全国的に見ても、大都市圏とは対照的に、地方の自治体は採用倍率が高いです。10倍以上もたくさんあります。講師を何年も続けているが、試験になかなか受からないのが厳しい現実です。大分教員採用汚職事件の裏側には、この「狭き門」が背景にあります。
※H.19年度実施の競争倍率(文科省発表)
http://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/20/01/07121304/002.htm

 こうした先生(教諭)になりたくてもなれない地方の有能な人材(講師)が、団塊の世代の大量退職で「広き門」の大都市に流れています。教師と看護師が都会に流れてしまう格差社会の現実を思いながら・・・試験に向かう若者たちの必死な姿を見つめていました。

試験が終わって、最後にマニュアルにはない言葉をこう付け加えました。

「私は今年初めて試験監督をさせてもらいました。みなさんの必死の姿を見せてもらいながら、心の中で応援していました。みなさん、暑い中本当によくがんばられましたね。お疲れ様でした。」

 夕方のTVのニュースで、試験の問題用紙を配布する私の姿が映っていたのを知ったのは、数日してからでした(^_^;)


◆よさを引き出す評価・・・集団面接の面接員

 島根県の一次試験には、5人ずつの集団面接があり、その面接員も担当しました。あるテーマについて集団で話し合いを行い、その中での意見の出し方、受け答えの仕方等を評価するものです。集団の中での自己表現能力を試されるのですが、協調性についても評価されるようです。 (ウィキペディア「教員採用試験」より)
 少し難しいテーマを与えて、対応力をみようという面接員もいるようですが、私を含め3人の面接員は、知り合いの関係だったので、いかに話しやすい内容で、話し合いを盛り上げていくか考えながら進めていきました。受験者は練習や準備もして臨んでいることでしょうから、少しでも緊張感を和らげて、話しやすい雰囲気を作り、いかにその人のよさを引き出すかを大切にしていきました。

 でも、こんな面接をしていたのは私たちだけだったかも・・・。


◆忘れていたもの・・・二次試験の試験監督

 夏休みの終わりの8月31日に島根県の二次試験がありました。論文・適性試験の試験監督をまた務めましたが、一次の時よりは暑さも和らいでいましたが、受験生の皆さんの熱い戦いは続いていました。
 教室に響く文字を書く鉛筆の音。必死な姿。その姿を前に、試験監督の私は自分に問いかけていました。

「私には、これほど一生懸命に取り組むものがあるのか?」

「目の前の人たちが目指している教師(教諭)として、恥ずかしくない仕事をしているか?」

 忘れていた“ひたむきさ”を思い出させてもらい、成長する自分の姿が今あるかを問いかける機会になりました。


◆教師としての適正とは?・・・模擬授業の試験員

 二次試験には、「模擬授業」もあり、その試験員を担当することになりました。模擬授業は、テーマを決めて授業を行うもので、目標や展開、教材観、評価法、子どもとの関わり方などを総合的に評価するもので、(ウィキペディア「教員採用試験」より)今年の島根の場合は、直前にテーマが与えられ、考える時間は数分しかありませんでしたので、対応能力や柔軟性も必要となります。

 ここでは、評価することの難しさと責任を感じました。評価の観点はあるのですが、実際の授業ではない「模擬授業」を通して、その人の授業力や教師としての適性を評価するのは、実に難しいです。実際の日々の授業をしている姿ならば、その人の力量はある程度推し量ることができます。それは子どもたちの姿を見れば分かるから・・・。

 ほんの数分の時間の中で構想を立てて、授業をたった一人で進めていく受験生の先生たちの力はすごいなあと感じました。頭の固くなった今の自分にはなかなかできないなあと本心では思っていました。

 子どもたちがいない中で、教師が一人演技をしながら、授業を進めていく「模擬授業」の中では、その人の“演技力”が必要となります。しかし、実際の授業の中では子どもとの対応で、教師の演技力も当然必要なのですが、よく見せようとする演技のやりすぎはマイナスです。その人の個性を消してしまう「模擬授業練習」のやりすぎが気になってしまいました。この人は、どんな授業を日頃しているんだろう?将来どんな学級を作っていくのだろう?そう思いながら、子どもの替わりににこにこして、うなずきながら「模擬授業」を見ていました。

 授業の後の質問で、自信満々に答える人が多い中で、今回はうまく子どもに説明できなかったと素直に反省する人もいました。その姿に、実は、教師にとって一番必要な適性とは、素直に反省でき、成長し続けようとする姿勢なのでは・・そんな思いをもちました。


 試験勉強をするより、日々の子どもの指導を一生懸命している誠実な講師の先生たちが報われる採用試験であってほしい!そう思った夏が終わりました。

 
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