「プロジェクト志向で行こう!」          10 11 

■「プロジェクト志向でいこう!」(10) 2006.2月執筆

◆複式学級でのスタート

 25年前 私が小学校の教師を始めたのは、全校で42名という小さな学校でした。初めて担任した学級は、3年生9名、4年生9名の18名の複式学級。当時の島根県の新規採用時のルールでは、複式学級の担任はしないことになっていると知ったのは、2年目でした。新規採用の若い教員には、複式学級の担任は負担が大きいと考えられていたようです。当時の周りの先生たちはご存じなかったようで、私は、同期の新採教員の中で、たった一人の複式学級担任からスタートという貴重な経験をすることになったのでした。

 複式学級とは「児童生徒数が少ないため1学年の児童生徒だけで学級を編制できない場合に、同一学級に2個学年を収容して編制する学級」を言います。

 今思うと、違う学年の子どもたちが一緒の教室で勉強するというのは、やはり困難な面が大きいと言えます。当時若かった私は、あまりそんなことは思わずにがむしゃらに取り組んでいました。ほとんどの学習は、2年間で3年と4年の内容を学習するという1本案(AB年度)で、2つの学年が同じ学習をしていました。
 ところが、系統性の強い算数だけは、バラバラにできないので、3年と4年が違う内容の学習を同じ教室で行っていました。先生が1人で、2つの学習をかけもちでやるのです。そして指導法の用語として「わたり」とか「ずらし」、「直接指導」「間接指導」という言葉が使われていました。(今でもありますが…)

 先輩の先生たちは、複式の困難性よりは、複式教育の理想を語っていました。

「複式学級は、教育の原点だ」
「複式のよさを生かして学び合いができる」
「間接指導で子どもの自主性が育つ」

“マイナスをプラス思考で”考えようとする発想は大切です。特に子どもたちは、単式か複式かを選べる環境にはないのです。今ある環境の中で、子どもたちにとって最善の教育活動をしていかなければならない!私もそう思います。

 前向きに考えることは必要です。でも、もっとマイナス面もきちんと見ないといけないのでは…実は当時からそう思っていました。


◆複式のよさは本当のよさか

・「複式学級は、教育の原点」か?

「へき地小規模校においては、少人数の特性を生かし、純真な児童一人一人を大切に
し、地域の豊かな自然に触れさせながら、地域との交流を図る中に、人間性豊かな児童育成の原型の姿がある。」とどこかで聞いたことがあります。

 自然豊かな環境での少人数の学級は、都会での30人学級よりも、「落ち着いて子ども自身が育まれていく」という環境面では、恵まれていると思います。でも人数が少なすぎるのは決して恵まれているとは思えません。学級集団として適切な人数は20人ぐらいでしょうか。決して10人以下ではないでしょう。少なくとも「複式」となるぐらい少ない人数が学級として望ましいと思う教師はいないでしょう。


・「複式のよさを生かして学び合いができる」か

 上学年が下学年を教えてあげる場面は複式のよい面とされています。お兄さん・お姉さんが妹や弟を教えてくれる場面は頼もしいです。上級生は、下級生の手本となるように、いいところを見せようとがんばります。そして、下級生は、上級生を見習ってがんばります。

 でも、よく考えてみると、下級生が上級生に教えることはあまりないし、お互いが“学び合う”場面は、単式よりは少ないように思います。異学年間の交流が毎日できるのは本当にメリットでしょうか。同学年だけでの学習や活動がほとんどできないという反面を思うと、メリットもデメリットに思えてきます。

 「個人差は単式学級でもあるので学年差は個人差と考えればよい。」という人もいます。そうかなあ?あえて個人差の大きい学級を作る必要があるのかなあ。そう思います。


・「間接指導で子どもの自主性が育つ」か。
 
 複式算数科で(2つの学年が別々の学習を同時に行う場合)、教師に頼らず子どもたちだけで学習せざるを得ない環境は、本当に自主性が育つ場になるのでしょか。確かに複式算数科では、必然的に教師が関わることができる時間は、単式の半分しかないわけですから、子どもたちだけで学習を進める習慣を身につけていなければ、学習が成立しません。でも、よく考えてみると、子どもたちの自主的な学習態度が複式算数の必要条件であっても、教師が授業中に直接関わることができないという条件は、子どもだけで自主的に学習を進めるための十分条件ではありません。

 親が忙しくて子どもに関わってあげる時間がないからといって、放っておけば、子どもは親に頼らずに自分でやるしっかりした子どもになるのでしょうか。
 
「環境が子どもを育てる」という面はあるにせよ、教師の指導によってこそ子どもの自主性は育っていくものだと思います。そうでなけでは、教師がいつも関わることのできる単式学級では、子どもの自主性は育たなくなってしまいます。


◆複式に未来はあるか?

 このように考えてくると、複式学級というのは、決して恵まれた教育環境とは言えないのではないでしょうか。教育行政上(学級編成定数があるために)やむを得ず作られた学級であることは否定できないと思います。。

 複式学級が本当に優れた学級編成なのであれば、大きな学校でも、複式の学級編成が意図的に作られるべきでしょう。3・4年学級1組、3・4年学級2組…。って聞いたことがありません。
 さらに、1つの学年の人数が少なく、2つの学年が一緒になって大きな集団になった方がよい場合もあるかもしれません。でも、そんな場合でも、それぞれに担任がいて、合同授業をする方がいいでしょうね。


“「複式」という困難をいかに克服していくか”そう考えていくと、未来が見えてくると思います。マイナスを意識するから単式との違いが見えてきます。発想の転換が図れるのです。

 指導時間が制約され、指導効率が求められるからこそ、子どもたちにひとりでの学び方を身につけてやらなければならないのです。自ら主体的に問題を解決していく「生きる力」が実は複式学級で求められる力であると言えます。そういう意味で、教師自身がその力を試される場が複式学級での指導なのです。


◆今年度の複式算数への挑戦

 前号で少し紹介しましたが、私の学校の校内研究の実践をWeb上で公開しました。

http://www.uno-s.net/2005/kenkyu2005/top.htm

この中に「3学級の実践(教頭)」というのが今年度の私の「複式算数への挑戦」です。

最後の部分を紹介します。
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2学級の0先生の実践を受けて“両学年間接指導”ができるような授業ができないかと考えて、3学級の子どもたちと約10時間の算数の授業の実践を行うことができた。

「授業の流れを示す」「めあての明確化」「ポートフォリオを活用して自己評価を行う」といった提案は、未来教育プロジェクト学習の手法で、総合学習で用いられている。このポイントを教科算数に応用した実践であったが、それなりに成果が見られたと思う。

複式算数のわたりの授業での限界も感じながら、教師の敷いたレールの上を進んでいく“与えられた学び”ではなく、子どもたちがめあてに向かって主体的に学習していく“意志ある学び”をめざす姿として、子どもたち自身に学び方を身につけさせていくことが複式算数の克服につながるという思いを強くした。
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ぜひご覧いただけたら…うれしです(^_^)v

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