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    ■「プロジェクト学習奮戦記」(11)   2004.3執筆

◆今、小・中学校でのブームは何?

・2、3年前にはしていなかったのに、今や小・中学校の6割で行われているものは何?

それは、「習熟度別指導」です。高校では以前から行われていたようですが、能力差別を生み出すということでこれまでタブー視されてきた「習熟度別指導」が文科省の後押しもあって、最近急速に現場では広がりつつあります。今や小学校の7割、中学校の6割で行われているそうです。(正確に言えば、少しでも導入している小中学校が、7割・6割あるということです。)最近では、大阪市教育委員会が今年4月から全市での習熟度別指導をすることを決定したというニュースがありました。今後導入する学校も更に増えてくると思われます。

確かに、教育界のこれまでの「行き過ぎた平等主義」の反省から個に応じた指導の必要性が叫ばれています。これまでの既成概念にとらわれない柔軟な発想が大切だと思います。しかし、私には、「習熟度別指導」が学力向上の上で有効かどうかという検証がまだ十分なされていないのに、「習熟度別指導」で学力向上を図るんだ!というレールが敷かれていて、そこを走らされているように思えるのですが…。

現場では、「習熟度別指導」の導入について、賛否両論あり、いろいろな議論がなされてきましたが、最近は「習熟度別指導」は学力向上の文科省認可の特効薬として、その効能を検討しないままに服用する学校が増えてきているのではないでしょうか。

本当に「習熟度別指導」で学力が向上するのでしょうか。今回から、これをテーマに考えてみます。

◆学力向上フロンティア校の使命

平成15年度から全国で805校から1623校に増えたもの。それは、「学力向上フロンティア校」。全国の小・中学校が約35000校ですので、約5%の学校が指定を受けていることになります。H.14年度が5億円、H.15年度が8億円をかけて取り組んでいる“「確かな学力」を飛躍的に向上させるための総合施策”(文科省)です。

それで、フロンティア校は何をするのか?と言うと
・発展的な指導、補充的な指導など個に応じた指導
・小学校における教科担任制の実践的研究
など、確かな学力の育成のための取組を実施することとなっています。より具体的な言い方をすれば「習熟度別指導」や「教科担任制」を小学校でも積極的に導入してその成果をあげなさいと言っているわけです。そして、そうした少人数指導を行うために教員の加配が行われています。
学力向上フロンティアの使命は、少人数指導、とりわけ「習熟度別指導」の具体的な成果を出し、それを他へ広めることです。
詳細はこちら…
http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/actionplan/

私の勤務する学校も学力向上フロンティア校です。

◆習熟度別指導の限界

東京大学大学院の教授 佐藤学氏は『習熟度別指導の何が問題か』(岩波ブックレット No.612) の中で、この習熟度別指導の問題点を指摘しています。
日本より先に取り入れた諸外国では 失敗に終わり,これを廃して成功した例もある。
習熟度別指導が子供たちの心を傷つけて学習意欲を阻害し、結果的に学力を下げてしまったドイツ。
習熟度別指導を退け、個々の力を伸ばすための学習集団での学びを充実させるという教育の質の向上を図って世界一の学力の国となったフィンランド。佐藤氏の主張は、競争と個人主義の教育から、「協同的な学び」へ転換せよというものです。
習熟度別指導をやめよ!とはっきり言い切る主張は、気持ちいいです。
詳しい紹介はこちら。
http://www.iwanami.co.jp/moreinfo/0093120/top.html

逆に、習熟度別指導はこれだけ効果がある!という説明はなかなか見つからない。

◆もし、習熟度別授業を行えば…

実際に習熟度別の授業を行うとしたら、「理解が進んでいる子のコース」は、理解や指導に時間がかかる子がいないので、通常が10の内容(量)ならば、12程度の量の練習ができるなど、スピードアップ、内容アップで、少しの学力の向上が望めるでしょう。指導者としては、こちらの指導はそう難しくはないでしょう。

 一方「理解が遅れている子のコース」では、基礎的・基本的な内容をじっくり時間をかけて行うことになります。通常が10の内容(量)ならば、8の内容をするのがやっとでしょう。細かなステップをゆっくり進めることで、わかる喜びを持つこともできるかもしれません。しかしながら、通常、理解に時間のかかる子は、学習意欲が持ちにくかったり、個別に配慮を要する子たちです。いくら人数が少なくなっても、そうした学習集団で、学習意欲を持続させながら、個々に対応しながら授業を進めるには、指導者の指導技術が高くないと授業として成立できません。

トータルで考えた時、習熟度別授業で学力がアップするのでしょうか。

ドリルの反復練習のような授業であるならば、こうした習熟度別の授業も有効なのかもしれません。しかし、子ども自身が考え、学び合うといった学習の授業では、「理解が遅れている子のコース」は授業のねらいを達成するのが難しくなりそうです。

また、現実には少人数の授業を行うための教員数等の教育環境はまだまだ不十分です。

私自身は、習熟度別授業に対して反対という立場ではありません。効果的な単元や指導方法もあるかもしれない。そうでない場合もあるだろう。そういうことを明らかにしていくことが大切ではないだろうか。そう考えています。

◆学力向上へのヒント

では、どうしたら、学力の向上が図れるのか?そのヒントは、前述の学力bPの国 ムーミンの国 リナックスの国 フィンランドにありそうに思います。

そしていよいよ「プロジェクト学習」が登場!

続きは次回4月号で…。
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